販促ナレーション(DJ)の仕事の面接と初日研修

アルバイト

前回のコピー機のアルバイトの失敗がきっかけとなり、僕は挫折した。僕は吃音症だったが、あえて人前で話すようなアルバイトをしてみようと思った。32年前のことだが、なぜ当時のあの吃音症の自分がそんな勇気を持ってアルバイトをしようと思ったのか、今思い出しても自分の行動に驚いている。

大学もちょうど2年生になる時期、確か4月ごろだったと記憶している。いつも読んでいるアルバイト情報誌「フロムエー」から、僕はワゴンDJの仕事を見つけた。仕事内容は化粧品関連の商品をマイクで紹介するものらしい。日給は1万円。お金目当てではなく、自分が人前で話せるようになることを目的としていたので、特にお金は気にしていなかった。もしかしたら、面接を受けても自分のような人間は採用されないと思ったが、とりあえず受けてみることにした。

面接は今も忘れない。少し太ったおじさん、キタさんという方が担当した。キタさんは非常にユーモアがあり、面白い人で、いつも冗談ばかり言っていた。

面接で、なぜ応募したか理由を聞かれた。僕は本当に内気な性格で、人前で話すのが苦手なので、その性格を克服したい、人前で話せるようになりたいと答えた。キタさんは僕のことを「偉いね」と言ってくれた。その日に合否の結果は出なかったが、数日後に採用の連絡が来た。

後で聞いた話だが、この時僕以外に数人面接を受けていたが、僕と役者の専門学生(服部くん)の2人以外は全員落とされたそうだ。意外だったのは、採用基準は話せるかどうかよりも、真面目で仕事ができるかどうかだったらしい。他の人は真面目そうでないという理由で落とされたとのことだった。

今冷静に考えても、よくこんな内気で吃音症のある、仕事になるかどうかわからない人間を採用したものだと思う。

ワゴンDJの研修

さっそく採用されて、まずは机上の研修からスタートした。僕は渋谷の本社に呼ばれた。その時、僕の同期には服部君がいた。彼は確か放送の専門学校に通っており、将来はアナウンサーや役者になりたいと考えていた。とても話し上手な人で、マイクを持つとカラオケのように歌ったり、即興でさまざまなパフォーマンスを見せてくれた。彼は目立ちたがり屋だったので、僕は彼を見て最初から気後れしてしまった。「彼のような人間ならこの仕事は向いているだろうが、自分には果たしてこの仕事が合っているのだろうか?」と思うようになった。そして、研修の講師は野上さんという方だった。当時確か26歳くらいで、背が高く、色白で非常にかっこよかった。話し方も自然で上手かった。

一通り研修を受けた後、実際の場所で実演トークの研修が始まった。僕は緊張して言葉に詰まってしまい、うまく話せなかった。一方、服部君は流暢に話していた。僕は自分と服部君を比較してしまい、劣等感を感じていた。

初日の仕事

初日の仕事の場所はジャスコ葛西店で、驚いたことに32年後の今もイオン葛西店として存在している。この仕事を僕は大学時代の3年間と30代後半から5年間行っていたが、この日以降このお店には行っていない。普通、このような量販店の派遣販売の仕事では、同じ店を何度も訪れるものだ。

僕はアシスタントとしてこのお店での仕事に参加。販促DJは野上さんで、彼のもとで指導を受けた。当日は現場で非常に緊張した。それは、大手化粧品メーカーの販促キャンペーンの手伝いということで、若い女性と一緒に仕事をすることになったからだ。この時代、化粧品メーカーの美容部員や販売員は高卒が多く、当時の僕にとっては、メイクをばっちりと施した彼女たちは大人の女性として圧倒的に映り、圧倒されてしまった。

また、販売の現場はお客さんがたくさん集まるので、僕は緊張から委縮してしまった。この時ばかりは、自分にはこの仕事は向いていないと感じて後悔していた。

最初の仕事は、化粧品サンプルの袋を持ちながらお客さんに「お土産付きますよ」と呼びかけるものだった。この呼びかけで人だかりを作り、実演販売を行い、タイムセールで多くの人を引きつけて販売する、というのがこの手のキャンペーンの一般的な流れだった。

僕が戸惑っていると、野上さんから厳しく叱られた。「お前は自分の殻に閉じこもっている。その殻を破るためにこの仕事を選び、ここに来たのではないか」と。いつも優しく微笑んでいる野上さんからの怒りの言葉に、僕は非常にショックを受けた。

この時の研修には、佐藤さんという女性も参加していた。彼女はとても明るく、美しい女性だった。休憩時に化粧品メーカーの女性美容部員と話している中、僕が緊張している様子を察知し、気を使って声をかけてくれたり、話題を振ってくれた。

初めてのタイムサービスのセールストーク

最後の1時間、野上さんはマイクを僕に渡し、僕にしゃべらせた。
この時、僕の緊張はさらに増した。
実際、ほとんどうまくしゃべれていなかったと思う。

野上さんが小さな声で「このように話すんだ」と指示を出し、僕はその言葉通りに、マイクを持ち次のセールストークを始めた。

『本日も当店へのご来店、心より感謝いたします』
『大変お待たせいたしました。今からタイムサービスを開始いたします』

この「タイムサービス」という言葉は、販促キャンペーンにおいて魔法のような効果がある。タイミングを見極める必要があるが、タイミングが合えばお客様が集まり、一気に商品が売れるので売上が伸びる。

僕もその後、何度もこのタイムサービスを駆使して、売り上げを伸ばすことに成功した。

そして、時刻が18:00を迎えて業務終了。一日の疲れが一気に出てきた。
一日中、緊張していたのである。
正直、初日の終わりには「この仕事、自分には無理かもしれない」と思った。