レンタルオフィスのアルバイトで出会った起業家。彼の言葉が僕の価値観を変えた
就活とアルバイトの狭間での選択
大学4年生の春、キャンパスの雰囲気がいつもと違っていた。卒業を控えた同級生たちがスーツ姿で企業説明会や面接に駆け回る中、僕も例外なく就職活動に身を投じていた。しかし、毎日のように企業研究やエントリーシートの作成を繰り返す中で、「自分は本当に社会に通用するのだろうか?」という漠然とした不安が心に重くのしかかっていた。特に、何か特別なスキルや実績があるわけでもなく、自分の中に確固たる自信がなかったことが原因だった。
そんな中、「これまでとは違う経験をしてみたい」と思うようになった。就活と並行してアルバイトを探し始めたのは、この気持ちがきっかけだった。「働くことそのものを通じて何か新しい気づきが得られるかもしれない」と漠然と考えた僕は、求人情報サイトを眺める日々を過ごしていた。飲食店やコンビニの仕事が多い中、「レンタルオフィスの受付業務」という少し変わった仕事が目に留まった。「オフィス」という響きにどこか特別感を覚えたのと同時に、「受付」という業務内容がどんなものか、まったく想像がつかなかったことが逆に興味を引いたのだ。
「とりあえず応募してみよう」という軽い気持ちで始めたこの挑戦は、予想外の学びと出会いをもたらすことになる。書類選考を通過し、面接を経て採用が決まったときの心境は、ほんの少しの達成感と不安が入り混じっていた。そして迎えた初出勤の日、オフィスに足を踏み入れた瞬間のことを今でも鮮明に覚えている。ガラス張りのエントランスから見える洗練された内装、ロビーで仕事に集中している人々のエネルギーが漂う空気感に、圧倒されるような感覚を覚えた。「自分がこの空間で働けるのだろうか」という緊張感とともに、「ここで何かを学べるかもしれない」という期待が心の中で芽生えた瞬間でもあった。
このアルバイトが、ただの収入源ではなく、僕にとって新しい世界への扉となることは、このときまだ知る由もなかった。
受付業務と日常の風景
レンタルオフィスの受付業務は、想像していた以上に幅広い内容だった。業務の基本は掃除や郵便物の受け渡し、そして来客対応。初めて勤務した日の朝礼で仕事内容を説明されたときには「これならなんとかこなせそうだ」と安心した。しかし、実際に業務を始めると、その奥深さに驚かされることとなった。特に来客対応では、訪れる人々の多様性に圧倒される場面が多かった。
このレンタルオフィスを利用しているのは、業種も背景も異なる人たちだった。設立間もないスタートアップ企業の若いCEO、長年事業を営んでいるベテラン経営者、さらには海外からの投資家やフリーランスのクリエイターまで、実にさまざまだった。彼らが交わす会話の端々からは、それぞれが抱える夢や課題、そしてその情熱が垣間見えた。自分の知らない世界がこんなにも広がっていることに気づき、次第に受付という仕事の枠を超えて、彼らの生き方や価値観に興味を持つようになっていった。
その中でも特に印象に残ったのが、一人の中年男性の起業家だった。50代くらいの彼は、いつも丁寧にアイロンがけされたスーツを着ており、ネクタイの柄がどこかユーモラスで、見た目に少し独特な雰囲気があった。受付を通るたびに笑顔で気さくに声をかけてくれるその人は、他の利用者とは少し違う温かさを感じさせた。初めてまともに話をしたのは、郵便物の受け渡しのとき。「毎日頑張ってるね、偉いね」と言われ、照れくささとともに嬉しさを覚えた。その一言がきっかけで、少しずつ会話を交わすようになり、僕にとって彼との交流がこのアルバイトの中での楽しみとなっていった。
彼との会話はいつも短いものだったが、どれも心に残るものだった。彼が仕事や人生についてさらりと口にする言葉には、深い意味が込められているように感じられた。「君もきっといい仕事をするよ」「挑戦する人はいつだって応援されるべきだよ」などの言葉は、就職活動で自信を失いがちだった僕の背中をそっと押してくれるものだった。こうして受付での日常は、単なる業務以上の価値を持つものへと変わっていった。
人生を変えた起業家との出会い
その男性との会話は、アルバイトを続ける中で少しずつ増えていった。郵便物の受け渡しや、ふとした受付での雑談。特に深い内容を話したわけではなかったが、彼の話し方や言葉の選び方には独特の温かさと説得力があった。最初は「気さくな人だな」という印象だったが、回数を重ねるうちに、彼が話す一言一言が自分の中に強く残るようになっていった。
そんなある日、業務終了間際に彼から「コーヒーでもどう?」と声をかけられた。驚きとともに、少し緊張しながらも了承し、近くのカフェに向かった。カフェの席に着くと、彼はさりげなく自分の名刺を差し出してくれた。その肩書きには「代表取締役」の文字が記されており、経営する事業の一端を感じさせるシンプルだが印象的なデザインだった。
コーヒーを飲みながら、彼は自分のこれまでの経験や仕事観について話してくれた。驚いたのは、彼が起業前に数多くの挫折や試行錯誤を繰り返してきたということだった。その中で、彼がたどり着いた結論の一つが「成功する人間は、常に自分をアップデートし続ける。そして、どんな人とも本気で向き合う姿勢を持っている」という言葉だった。この言葉は、当時の僕にとって衝撃的だった。
就職活動をしていた僕にとって、仕事は「スキルや資格が重要」というイメージが強かった。しかし、彼は「成功するには人間性や姿勢が土台になる」と語った。その具体例として、自分がどういう人と関わり、どう向き合ってきたかを話してくれた。特に「相手がどんな立場であろうと、その瞬間だけでもその人と真剣に向き合うことが、後に自分を助けてくれる」という考え方に、大きな気づきを得た。
これまで「効率や結果が大事」とばかり思っていた僕にとって、この視点は全く新しいものだった。自分がいかに目先のことだけで物事を考えていたかを痛感させられたと同時に、「どう生きるか」という根本的なテーマについて考え始めるきっかけとなった。彼の話は、ただ聞いているだけで自分の中に強いエネルギーを与えてくれた。
この短い時間の対話は、僕の価値観を大きく変えた出来事だった。彼の言葉が、自分の心の中で静かに、しかし確実に響き続けていることを感じた。
その教えがもたらした変化
彼から教わった言葉は、アルバイトに対する僕の意識を大きく変えた。それまでは、受付業務を「与えられた作業をこなすだけの仕事」と捉えていた。しかし、「成功する人間は、どんな人とも本気で向き合う」という彼の言葉が心に深く刻まれたことで、自分の仕事に対する考え方が次第に変わっていった。受付業務も単なる作業ではなく、「目の前の人に何を与えられるか」という視点で取り組むべきものだと思えるようになったのだ。
その変化は、まず自分の態度や行動に現れた。たとえば、郵便物の受け渡しという一見シンプルな作業であっても、利用者の名前を正確に覚え、受け渡しの際には必ず一言添えるようにした。「お疲れさまです」といった挨拶や、「今日はいい天気ですね」といった軽い会話を意識的に取り入れた。そうすることで、相手との距離が自然と縮まる感覚を覚えたのだ。
この小さな変化は、利用者とのコミュニケーションにも良い影響を与えた。ある日、長年レンタルオフィスを利用しているベテラン経営者から、「君はいつも気が利くね。おかげで気持ちよく仕事ができているよ」と声をかけられた。その一言は、僕にとって大きな励みになっただけでなく、「仕事を通じて人に価値を提供する」ということの重要性を実感させてくれた。
さらに、この意識の変化は同僚との関係性にも波及した。他のスタッフが困っているときには積極的に手を貸すようになり、感謝されることが増えた。また、職場全体の雰囲気が少しずつ良くなるのを感じ、仕事に対するやりがいも次第に高まっていった。以前は「アルバイトだから」という考えで、最低限のことだけをしていた自分が、目の前の仕事に全力で取り組むようになっていた。
このような小さな行動の積み重ねが、僕自身の成長に繋がったことを強く感じる。仕事への意識が変わると、それに伴って自分の行動や周りの人との関係性も自然と変化していくのだと実感した。この気づきは、就職活動を進める中での大きな糧となり、「自分にも何かできることがある」という自信を与えてくれた。起業家との出会いが、アルバイトという一見平凡な日常を、学びと成長の場へと変えてくれたのだ。
アルバイトを通じて得た成長と未来への影響
レンタルオフィスでのアルバイト経験は、単なる収入源や就職活動の隙間を埋めるためのものではなく、僕の人生観を大きく変えるきっかけとなった。この仕事を通じて、「何気ない仕事も、自分次第で学びと成長の場に変えられる」という教訓を得たことは、これからの人生においても重要な指針となっている。
受付業務をしながら、多くの利用者やスタッフと接する中で学んだのは、目の前の仕事に真剣に向き合う姿勢の大切さだ。どれほど小さな業務であっても、そこには必ず価値を生み出す可能性がある。郵便物の受け渡し一つを取っても、ただ渡すのではなく、相手の気分が少しでも良くなるような気配りを添えることで、仕事が「作業」から「人との交流」に変わるのを実感した。
特に、起業家の男性から教わった言葉は今でも支えとなっている。「成功する人間は、常に自分をアップデートし続ける。そして、どんな人とも本気で向き合う姿勢を持っている」というアドバイスは、就職活動においても、社会人としてのこれからの道においても、心の中に刻み続けている。この言葉があったからこそ、自己成長を意識し続ける習慣が身につき、何事にも真剣に取り組むことができている。
就職活動の面接でも、このアルバイト経験をもとに、自分がどのように成長し、どんな価値観を得たのかを語ることができた。その結果、自信を持って自分をアピールできるようになり、採用に繋がった経験もある。このアルバイトでの学びは、単なるアルバイトの枠を超え、僕の未来に対する大きな糧となったのだ。
最後に、この経験を通じて得た一番の教訓を共有したい。それは、「どんな場所でも本気で向き合えば、必ず得るものがある」ということだ。レンタルオフィスでのアルバイトは一見平凡に見える仕事だったが、自分次第でそこから学びを引き出すことができた。これからの人生でも、どんな仕事や環境にあっても、この姿勢を忘れずに取り組んでいきたいと思う。読者の皆さんにも、「日常の中に成長の種がある」ということをぜひ伝えたい。どんなに小さな挑戦でも、きっと大きな変化をもたらしてくれるはずだ。
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