吃音症の僕が電話代行で掴んだ自信:断られることの喜びと成長

アルバイト

勇気を持って応募した理由

当時の僕は、大学2年生で吃音症を抱え、人前で話すのが極端に苦手でした。高校時代は友達もほとんどおらず、周囲に自分の気持ちを打ち明けることすら難しく、どんどん殻に閉じこもるようになっていったのです。

大学生活に入ってからも、その状況は大きく変わることはありませんでした。講義が終われば誰とも話すことなく帰宅し、自室に閉じこもる日々。それでも、心のどこかでは「こんな自分を変えたい」という気持ちがくすぶっていました。
ある日、アルバイト情報を何気なく眺めていると「電話代行のコールセンター」の求人を見つけました。時給が他のアルバイトに比べて高いことに惹かれたのもありますが、それ以上に「この仕事なら自分を変えられるかもしれない」という思いがありました。

とはいえ、応募するまでにはかなりの時間がかかりました。「やっぱり無理かも」と応募フォームを閉じた回数は数えきれません。最終的には「失敗してもいい」と腹をくくり、意を決して応募ボタンを押しました。そして採用通知が来たときの喜びと不安が入り混じった感情は、今でも忘れられません。

初めてのテレアポ:恐怖と挑戦の瞬間

面接に通ったものの、初出勤日を迎えるまでの数日間は、不安と恐怖に押しつぶされそうな毎日でした。「本当に自分にできるのだろうか」という思いが頭を離れず、何度も「やっぱり辞退しよう」と考えました。

それでも、「ここで逃げたら、また同じ自分に戻ってしまう」という思いが、ギリギリのところで僕を支えてくれました。そして迎えた初出勤日、職場に着いた瞬間のことを今でも鮮明に覚えています。電話が鳴り響くオフィスの中で、忙しそうに動き回るスタッフたちの姿を目の当たりにし、「自分は本当にここで働けるのだろうか」と圧倒されました。

それでも、指定された席に座り、初めての業務説明を受けながら、恐怖と緊張がピークに達しました。そしてついに迎えた初めての電話。受話器を握る手は汗で滑りそうになり、声は震えて、テンプレートの挨拶を読み上げるのが精一杯でした。相手から「いりません」と一言で断られたときには、心がズシンと重くなるのを感じました。

それでも、初日をなんとか乗り切った自分に対して、ほんの少しだけですが「自分も頑張れるのかもしれない」と思えた瞬間がありました。

声を出すことの意外な効果

コールセンターのアルバイトを続けていく中で、徐々に電話をかけることに対する抵抗感が薄れていくのを感じました。最初は、電話をかけるたびに心臓がドキドキして、声が震えてしまうことが当たり前でしたが、何度も同じセールストークを繰り返しているうちに、少しずつ慣れてきました。

特筆すべき点は、僕の「落ち込み方」が普通の人とは少し違っていたことです。一般的には、電話をかけて断られると落ち込む人が多いと思いますが、僕の場合、断られること自体にはあまり傷つきませんでした。それよりも、吃音の症状でまともに話せないことが怖かったので、断られたとしても、きちんと最後まで話すことができたという事実があれば、それだけで満足感を得られたんです。相手が怒っていたり、嫌われたりすることよりも、「自分がしっかり言葉を伝えられた」という達成感のほうが大きかったんです。

この「基準の違い」は、結果的に僕にとってプラスに働きました。周囲のスタッフの中には、断られることに耐えられずに辞めてしまう人もいましたが、僕はむしろ「嫌われても話せた自分」を誇りに思い、それが次の挑戦へのモチベーションになりました。その積み重ねのおかげで、最終的には平均以上のアポイント数を取ることができるようになったんです。

この結果を振り返ると、吃音があったからこそ「話すことができた」ことに喜びを見いだせたのではないかと思います。もし、僕が吃音でなければ、断られることばかりに目が向いて、ここまで継続することができなかったかもしれません。この経験は、まさに「怪我の功名」と言えるものであり、僕にとって大きな成長の一歩となりました。

挑戦することで見えた景色

コールセンターのアルバイトは、僕にとって大きな挑戦でした。しかし、その経験を通じて、声を出すことの大切さや、失敗しても前に進む勇気を学びました。このアルバイトがなければ、僕は今でも人前で話すことに怯えていたかもしれません。もちろん、全てが順調だったわけではありません。断られることが続けば気持ちが沈むこともありましたし、吃音が原因でうまくいかない場面もありました。それでも、この経験を通じて「自分にもできることがある」という小さな自信を得ることができました。それは、僕の人生にとって大きな財産となっています。もし、今の自分を変えたいと思っている人がいるなら、ぜひ小さな一歩を踏み出してみてください。その一歩が、あなたに新しい景色を見せてくれるかもしれません。